クマの視点から森を知る
人もクマも森も関係し合っている
2025.02.12

安江悠真(やすえ・ゆうま)さん
PROFILE
岐阜県白川町出身。祖父は茶屋の店主。大学卒業後、岐阜市内の建設会社で都市計画に携わり、まちづくりのコンサルティングを行う。社内の新しいプロジェクトに配属し、高山市に転勤。高山市街地にコーヒーショップを出店し、訪日観光客のニーズをヒアリング、まちづくりに活かす役割の仕事をしていた。コロナの影響により店は閉店。退社後、飛騨市神岡町の伐採事業者に転職しながら、個人事業主として起業し、森林の体験コンテンツを造成。エコツーリズムアワード2024年特別賞を受賞。

森に近いところで仕事をしていくうちに、飛騨の森は、桁違いに樹種が多いことに気づきました。標高差があって植生が多様なんです。多様性の時代に、飛騨の地域性を活かし、豊富な山林資源を活かすビジネスを本気でしてみようと考え始めました。そこから、サラリーマンをしながら起業し、森を体験するツアーの企画や、素材を届ける仕事も行っています。気づけば、年間約100kgのクロモジを山から担いで降りているようになりました(笑)。

森林に関わっているなかで知り合ったヒダクマ(株式会社飛騨の森でクマは踊る)の松本さんと社有林をどうやったらもっと面白く活用できるかという話から、学びのためのツアーコンテンツをつくることになり、そこで生まれたのが「ツキノワグマにとって豊かな森を学ぶ2日間のフィールドワーク」です。
僕はもともと大学で野生動物研究部に所属していて、林業と野生動物の関係や、森林科学など、野生動物を取り巻く環境で持続可能性や生物多様性について学んでいました。中でも専門は大型哺乳類のツキノワグマです。

「ツキノワグマにとって豊かな森を学ぶ2日間のフィールドワーク」は、1日目は、ツキノワグマの視点で森を歩きます。クマの痕跡から、どんな暮らしをして何を食べているかを知り、森との距離を縮めます。特定の生き物にフォーカスして、その生き物の主観で森を歩くと、全く別の森に見えてきて、その部分だけ詳しくなるんです。クマは肉食だから木の実や葉っぱでも、苦味のない部分だけ選んで食べてるとか、クロモジだけ見分けられるようになるとか。

2日目に、古い時代の伐採や砂防ダムなど、人の手が入っている、攪乱された森の部分を案内します。人の手が入り、森が切り貼りされて「継ぎ接ぎ」状態になることで、色々な環境が生まれ、豊かな森、生物多様性が生まれます。人が昔、伐採していることで、今の森ができている、切り捨てられた間伐や倒木、切り株などが、やがて朽ち木になり、アリや蜂がやって来ます。夏場のクマは、アリや蜂を食べて生きています。人間と森の関わり方に、熊も関係しているのです。このツアーがエコツーリズムアワード2024の特別賞に選ばれて本当に嬉しかったです。
「オーバーユース」「アンダーユース」という言葉があります。昔は、山や森林を乱獲し、自然を破壊していましたが、今はまるで逆。誰も山に手を出さないし、山の成長に人の手が追い付かない。昔はもっと、人の暮らしの中で、森林を活用していました。昔の暮らしに戻る必要はないけれど、今の時代に一般の人がどうやって在来の植物にアクセスして、どう使っていけるのかが試されていると思います。