森は想像力を豊かにしてくれる
2025.02.12
黒坂 真(くろさか・まこと)さん
神奈川県出身。大学卒業し、2005年にトヨタ白川郷自然学校開校のスタッフとして運営団体のNPOに所属。その年に白川村に移住し、現在に至る。

トヨタ白川郷自然学校が開校したのは2005年。ちょうど「愛・地球博」開催の年です。社会的には、公害や環境問題が顕著化してきた時。ちょうどトヨタ自動車も環境マインドを育む事業を考えていた時でした。 トヨタ白川郷自然学校ある土地は、もともと100人ぐらいが暮らしていた合掌づくりの集落でしたが、高度経済成長期の昭和48年に集団離村が始まり、その後、トヨタ自動車が保養所として土地を購入、しかし、昭和56年の豪雪災害で家屋がほとんど倒壊してしまいました。土地だけがあって、何もしていないところ、「このままじゃもったいない」という周囲の声もあって、自然学校への準備が始まりました。

僕の実家は、神奈川県でも電車の駅がない、ゆったりとした町でした。祖母の家には裏山があって、小さい頃は自然がいつも近くにあったと思います。そんな原体験からが、大学生の時、行政や民間、NPO団体などさまざまな機関が主催する小学生向けのキャンプに自然体験活動の補助スタッフとして参加していました。 20歳の時に、自分の生き方を決めるため、自分の関心事としてあった「宇宙」「環境」「国際交流」「子ども教育」この4つを1つにまとめて「地球規模の視点で、国際交流活動や自然体験活動を通じて、青少年育成を目指す」と指針を決めたのです。
トヨタ白川郷自然学校の開校を知ったのは、ちょうど大学4年生の11月でした。「森の人づくり講座」という1週間の講座に参加した時、当時の校長が来て「日本一美しい村に、日本一の自然学校を作るんだ」と話していて、ビビビと心が動きました。まさに自分が決めた生きる指針のすべてが含まれている仕事です。最初はとにかくがむしゃらにゼロから全てつくっていきました。体験プログラムも何度もトライ&エラーを繰り返しながら、一つひとつ積み上げていきました。

そんな中、コロナで何もかもできない時期がありました。「STAY HOME」が叫ばれていた中で、1歳と5歳になる我が子を外で遊ばせてあげたかったので、トヨタ白川郷自然学校の私有林に「空間」をつくる作業を一緒にやったんです。学校帰りに森に寄って、一緒に何かをつくる。子どもたちから「ここにテーブルあったらいいよね」と声が出れば、木を切って、手作りのテーブルを作ったり、椅子も作って、森でおやつを食べる空間をつくったり。そんな時間を過ごす中で、「森は想像力を豊かにしてくれる」という答えに辿りついたのです。これは家族だけでやるのはもったいない、ということですぐに体験プログラムに取り入れました。それが「我が家だけの秘密基地づくりキャンプ」です。

「我が家だけの秘密基地づくりキャンプ」では、子どもだけじゃなく、大人も夢中で空間づくりに集中します。森の資源を自由に使ってハンモックやシーソー、アスレチックなど、参加される人たちが、それぞれに作りたいものを作ります。1日目はどんな空間をつくるかコンセプトを決めます。参加される家族によって違いがあって面白いです。これまでに「遊園地をつくる」「一晩必ず寝れる場所をつくる」とかがありました。そしてキャンプの最終日には、ちゃんと片づけて「ありがとうございました」と森に挨拶して終了です。
三方良しだなと思うんです。「客良し」「運営良し」「森良し」。適度に人の手が入ることで森は藪だらけにならず、美しくなる。参加されたお客様も「ついさっきまで何も気にならなかったものが宝物に見えてきた」と言ってくれる。言葉で色々とお伝えするより、体験を通して自然に、「森には色んな素材がある」ということ知ってもらえる。
白川村に暮らして20年近くなりますが、「自然に寄り添う暮らしは、とっても豊かだよ」と伝えたい。近所のおじいちゃんは、僕が「買い忘れた!」と思うようなことでも、森に鉈とのこぎりもって行き、木から何でも作っちゃう。
暮らしにいるものは森にだいたいある。人として生き抜く力というか強さを感じました。 自分の子どもたちにも、トヨタ白川郷自然学校へ来てくれた皆さんにも、そういうことも気づきになれば嬉しいですね。