地域にある資源で産業をつくる、飛騨の広葉樹は可能性の宝庫
2025.05.11
及川 幹さん
株式会社やまかわ製材舎 代表

大学で文化人類学を学ぶなかで、民族的な生業に人と自然との関係性に理想を見たんです。それに近い仕事が林業や木材業だと感じ、最初は針葉樹の会社に入りました。杉や檜といった人工林を中心とした量産の世界ですね、基本的には規格品。決まったグレード、決まった単価で材料供給していくという堅い流通をやってきたんですが、そこから漏れていくものがたくさんあると気づいたんです。

そこで、切り口を変え、地域にあるもので産業をやってく、流通をつくっていくということにチャレンジしたいなと思ました。その時、漏れていくもののなかにある広葉樹にとても自由度が高いというか、可能性が大きいと思って飛騨に移住しました。新しいものを一から作ってくっていう機運がすごい高かった時期で、市が募集していた「広葉樹コンシェルジュ」に応募し、採用されたことがきっかけです。飛騨の環境だったら、天然の広葉樹があって、木を使う文化があって、これは、自分が興味をもったことがこの地域だったらできるんじゃないかと思いました。

広葉樹は9割弱がチップになります。そこに新規開拓する余白がある。価値がないとされてるものに価値を付けて流通させていくというのは、針葉樹に比べると営業する余地がまだまだあるんじゃないかと思いました。今年の3月まで広葉樹コンシェルジュでしたが、今は起業して、「やまかわ製材舎」という会社をつくり、製材事業と木材にするための短期乾燥の実験な度も行っています。広葉樹コンシェルジュとしては、事業者間のマッチングやコーディネートみたいな仕事が多かったですが、今は、自分で製材して直接お客さんに届けているので、とても物事の進み方がスピーディですね。

例えば、建具は一般的には安くて使いやすい外材がメインですが、供給が安定しないのと、建築も減っていくなか、空間に強い特色を出していく部材を使った建具を提案してみたいと思いました。飛騨でやるならホオノキだなと思い、大阪の工務店さんに提案したら快諾していただけました。ホオノキは狂いにくく、色味が特徴的なので、風合いが個性的な建具になります。ホオノキは自動車の工場に使われる鋳物の型に使われたりとか、関の刃物の包丁の柄によく使われたりするんですけど、他にはあまり使われていません。ホオノキは「素」がいいんです。性根が腐ってないまっすぐしたやつ(笑)。広葉樹は曲がっていて、細くて使いにくいというイメージがあるけれども、ホオノキは大きくて、比較的真っ直ぐ。乾燥しても狂いにくく、製材すると、素のいい木は、パーンと真っ二つになります。それだけまっすぐ繊維が伸びてて木目が通っているということ。建具みたいな長く狂わせたくないものには、実は向いているのだと思います。国内大手の工務店さんが、ホオノキで人工衛星作ったっていう話があって、宇宙で狂わないなら、地球じゃ狂わないだろうと(笑)。
僕は産業と自然が「同期」していないと感じています。産業は産業側の都合が当然あって、自然は自然側で関係なく生きています。でも、なるべく自分は自然のリズムと産業のリズムが同期できたらいいと思うので、自然に生まれたものがちゃんと生かされていく、使われていくという姿が健全だと思いますし、無理がなく楽しいですよね。