「森林浴」という非日常。自然を五感で感じる体験で心を整える。
2025.05.20
森とひととき 代表 臼田陽子さん
私は「森とひととき」という屋号で、自然体験、特に森林浴のプログラムを実施しています。特定の場所にこだわることなく、清見にある大倉滝や、ガイドブックには載っていないような彦谷の森、高根の池の周りなど、色々な森を使わせていただいています。そもそも森林浴というのは、どこでなければできないというものではありません。森である必要さえなく、極端な話、街中にあるお気に入りの自然を感じられる場所でも可能です。一番大切にしているのは、「五感を使って自然を感じる」ということ。普段の生活では意識しない、あるいは閉じてしまいがちな五感を意識的に開いて森を感じる、というのが森林浴です。


「森林浴って何?」という本を読んだ時、森林浴が単に心地よいだけでなく、健康にとても良い効果がある、ということを知りました。しかも、それにはきちんとした科学的な理由があるんです。例えば「フィトンチッド」というのは少し聞いたことがありましたが、これは木が自己防衛のために出す揮発性の成分です。木は動けないので、虫や菌から身を守るためにこの物質を出すのですが、これが人間にとても良い効果をもたらすことが研究で分かっています。

フィトンチッドだけではありません。森という空間に身を置くこと自体が、様々な生理的な効果をもたらすことがデータで示されています。例えば、血圧や脈拍、血糖値の安定。そして、特に重要なのが「副交感神経が優位になる」ということです。これによりリラックス効果が高まり、血圧が下がったりといった効果が得られます。自律神経のバランスを整えるのは、意識的にできることではありませんが、森に行くことで意識的に副交感神経を優位にすることができるのです。

最近は眠れないという人も増えていますが、森に行った日はよく眠れる、というのは、単に疲れたからというだけでなく、自律神経のバランスが整ったおかげ、ということもあります。そして、副交感神経を優位にするためには、フィトンチッドなどの成分を浴びるだけでなく、五感で心地よさを感じることがとても重要なんです。

例えば、知識を学ぶような森歩きは、思考に偏ってしまい、むしろ交感神経が優位になりやすいんです。そうではなく、「今、ここから風が吹いてきたな」とか、「土の香りがするな」「木漏れ日が降り注いで、暖かいな」「歩いた時の足音や水の音が心地よいな」、あるいは苔などをあえて触ってもらうことで感じる「手触り」など、そうした五感で感じることによって、思考がシャットアウトされるんです。これが副交感神経を優位にすることに繋がることも分かっています。
プログラムでは「何も考えなくていい、何もする必要がない時間」を提供したいと思っています。「椅子とか持ってきてください」なんて一切言いません。行ったら、椅子やヨガマット、ハンモックなどを置いておき、寝転びたい人は寝転べばいいし、座りたい人は座ればいい。ただ、心地よい時間を過ごしてください、というスタンスです。ちょっとゆったりと黙って過ごしてもらう時間を設けて、その後、起き上がってきたらそこにお茶とお菓子が準備されていて、それを飲みながらゆっくりする、というようなこともしています。これはもう「自分のための時間」なんです。